講演会
「フィクションと現実を架橋する想像力ー犬鳴村の現実性を分析する」
・講師:デ・アントーニ アンドレア
2022年6月22日 総人棟1104(16:45-18:15)
報告:中村慶
2022年6月22日、デ・アントーニ アンドレア氏を講師としてお招きし、講演会が開かれた。題目は、「想像力」という大きなテーマを映画『犬鳴村』を題材に考えるというものである。
まず、現代日本を取り巻く、心霊スポットや怪奇現象、宗教観といった内容を体系立てて説明していただいた。日本では、宗教を信じている人の割合は相対的に少ないいっぽうで、超自然的な何か、すなわち霊やオカルトのようなものに心惹かれる人が多いのもまた事実である。さらに現代日本のオカルトを語るうえでは、ネットの普及という出来事が欠かせない。「体験談」や、場所の気味悪さ、暗い歴史といった情報がネット上で共有され重なり合い、心霊スポットなるものが作られていく。また、弱者の武器としての幽霊、という考え方にも言及がなされた。この場合の弱者とは多くの者を含むが、弱者を制度化された歴史に組み入れるものとして霊が機能することもあるとのことである。
そして、テーマとなる「犬鳴村」の話へと議論が進む。映画『犬鳴村』が公開されるとともに注目が集まり、体験ツアーが組まれたり、やはりネット上での言説が熱気を帯びたりという現象に巻き込まれた「犬鳴村」だが、「犬鳴」という地名も実際にある。そして犬鳴トンネルという、映画でも登場するトンネルは実在し、これは元々「心霊スポット」だった。しかし、犬鳴村を取り巻く都市伝説は多数存在するが、これらはいずれも事実ではないということである。にもかかわらず、なぜ都市伝説化したかというと、実際に現場近くで起きた事故や殺人事件、あるいは誤解を生じさせるような強い文言の看板の目撃談などの偶然が重なり、それらを取り巻く言説がネット空間で増殖、加熱したことが原因だ、というのがデ・アントーニ氏の解説だった。他にも犬鳴村のような形で「都市伝説」の対象になった村はあるが、共通している要素として氏が指摘したのは、「他者」との関わりというものである。犬鳴村であれば、古くから修験道との関係が深いことや、炭鉱の存在により外部からの労働者が存在したことも重要という指摘がなされた。
このように、他者と深く関わる歴史を持つ場所がメディアやネットの影響で言説が絡み合い、心霊スポットに旧犬鳴トンネルについての言説が構築されて、新たな実践(観光や取材、肝試し)によって「確認」され、新たな経験と結びついていく、と氏が最後にまとめられた。また、インターネット上の「経験」はパターン化されていて、大げさになっていることもある。参加者は、映画も含めたメディアが超自然的なものや想像力を加速させる可能性があるということを、深く考えるきっかけをいただいた。
その後の質疑応答では、歴史と場所性の関わり、何かを隠そうとする意識と心霊スポット化の関わりといった幅広い内容の議論が交わされ、活発に意見が飛び交った。